時間の流れが止まってしまったかのような
錯覚を覚える第3楽章
ブラームスのピアノ協奏曲第2番はあらゆる協奏曲の中でも際立って密度の濃い音楽ですね。この曲については以前も投稿させていただいたことがありました。
どうしてこのピアノ協奏曲が好きなのかといえばあの第3楽章アンダンテがあるからなのです。夕映えに照らされた広々とした大地を想わせる第1楽章やシンフォニックな第2楽章、無垢な味わいの第4楽章等々それぞれに素晴らしいのですが、私にとっては何といっても第3楽章に尽きます。
内省的で温もりにあふれたこの第3楽章アンダンテを聴くと、いつも時間の流れが止まってしまったかのような錯覚を覚えるのです……。これまでこのアンダンテにどれほど癒されたことかはかりしれません。心身ともに疲れたときにピアノ協奏曲第2番から第3楽章をとりだして聴くことが多いのですが、やはり他の楽章とは何かがちょっと違う気がします……。何よりも肩の力を抜いてじっくりと音楽に浸れるのが魅力なのでしょう。私にとっては疲れた心を癒し、静かに傍らに寄り添ってくれる数少ない音楽なのです。
万感の思いが込められたテーマと
ピアノのモノローグ
まず、チェロとヴィオラが奏でる出だしの万感の思いが込められた旋律に強く惹かれます。何という優しさと味わい深さでしょう! ピアノが奏でる旋律はこれといったメロディがなく、管弦楽が奏でる対旋律にモノローグのように語りかけるのみなのですが、これがとても効果的で瞑想や深い余韻が心に沁み渡っていくのです。
特に印象的なのは中間部でピアノと管弦楽が心の動揺を訴えるように強奏する部分とそれに続くクラリネットとピアノが対話を繰り広げるところから辺りの情景が一変するところですね。様々なしがらみから解放されたような解脱感が心地よく、本当の意味での遊びの境地が夢のような世界を紡ぎ出していきます。
演奏はやはりバックハウスとベームがウィーンフィルと競演したデッカ盤が永遠不滅の名盤と言ってもさしつかえない素晴らしさです。1967年の録音ですが、録音状態は優秀で今もってその魅力は少しも色あせていません。特に前述の第3楽章は融通無碍のバックハウスのピアノとベームの好サポート(もちろんウィーンフィルの音色の美しさも抜きにはできません)で魅力が倍増したといっても過言ではありません。
もちろんその他の楽章も最高のできばえで、ピアノと管弦楽が高次元なレベルで最高のバランスを保ちながら進行していきます。これこそ「感動」を共有するために一切妥協しないで生まれた奇跡の産物と言えるのではないでしょうか。ブラームスが伝えたかった強靭な魂や抒情的な美しさもこの演奏によってこそ、本当の意味が刻印されたといっても間違いではないでしょう。
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