ワクワクするオラトリオ
この作品を聴くとなぜか心がワクワクして、うれしい気分になります。 オラトリオとしては異例の親しみやすさですし、愛すべきメロディが充満しています。とにかく普通のオラトリオとはちょっと違うんですよね…。
「四季」といえば、「天地創造」と並ぶハイドン晩年の傑作オラトリオですが、少しも堅苦しさが無く、あふれるような美しい旋律と作曲技法の冴えが縦横無尽に展開するのが特徴です。よりハイドンの魅力が現れた作品ということであれば、私なら躊躇なく「四季」を選びたいですね!
なぜかと言えば「四季」の作品としての愉しさや途切れることのない音楽の生命力は最高で比類がありません! また、ハイドンが瞼に浮かべたであろうオーストリアの農民の生活と四季折々の情感が彼の個性と曲の本質にぴったりとマッチし、何とも言えない幸せな気分にさせてくれるのです……。
ハイドンは四季を作曲中に台本の貧弱さで苦しんだり、作家との折り合いが悪くなったり…と難儀に難儀を重ねて完成させたようですが、出来上がった作品の素晴らしさはそれらをすべて忘れさせてくれます。
演奏時間にすれば2時間少々なのですが、どこもかしこも四季折々の麗しい自然の息吹が感じられ、農民たちの生き生きとした生の喜びを豊かに謳いあげています。そしてそれがやがて神への感謝と湧き上がる希望や信頼へとつながっていくのです!
豊かな音楽と時代を先駆ける楽曲の数々!
「四季」で印象に残る楽曲はたくさんあります。 たとえば、「春」ではすこぶるご機嫌で親しみやすい第4曲のアリア「農夫は今、喜び勇んで」を外すわけにはいかないでしょう。このアリアは何回聴いても楽しく胸が弾みます! 三重唱と合唱の絡みが素晴らしい第8曲の「おお、今や何と素晴らしい」は多彩な表情やアンサンブルの妙味が少々オペラチックだし、可憐で愛らしいですね。
「秋」では野趣で豪放、かつ立体的な魅力にあふれた第28曲の合唱「万歳、万歳、ぶどう酒だ」が合唱の概念を変えるような傑作です。第26曲「聞け、この大きなざわめきを」では角笛を模したホルンの雄大で格調高い響きが存在感抜群で、村人と狩人たちの合唱(男声の野趣で雄々しい歌声)と重なり、生命の賛歌を轟かせてやみません。
そして「冬」というより、全体を締めくくる第39曲の三重唱と合唱「それから、大いなる朝が」は自然への感謝と喜びが、来るべき希望の世界を約束するかのようにフーガのメロディとともに大いなるフィナーレを迎えるのです!
飽きさせないヤーコプスの名盤
「四季」の全曲盤はルネ・ヤーコプス指揮フライブルク・バロックオーケストラとRIAS室内合唱団、マルリス・ペーターゼン(Br)、ディートリヒ・ヘンシェル(T)、ヴェルナー・ギューラ(S)の演奏(ハルモニア・ムンディ)が録音、演奏、歌心、共感度等すべてにおいて最高のものと言っていいでしょう。ストーリー的な流れも自然だし、歌にメリハリがあります。ソリストたちの歌も雰囲気満点で「四季」の自由で喜びにあふれた作品性を明確にしていきます。 指揮は終始やりたいことをやり尽くしているのに嫌味がまったくありません!
ヤーコプス盤はできれば最初から最後まで聴き通すことをお勧めしたいですね…。 そうすれば曲の本質がぐっと近くなるでしょうし、それを雄弁に表現する音楽性と飽きさせないヤーコプスの解釈がいかに優れているかお分かりいただけるでしょう。 全体を一度に聴こうと思ったらヤーコプス盤しかないと言っても過言ではありません。
ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツおよびモンテヴェルディ合唱団、バーバラ・ボニー(S)、アントニー・ロルフ・ジョンソン(T)、アンドレアス・シュミット(Br)(アルヒーフ)も素晴らしい出来栄えです。 特にボニーの可憐な歌は全体の華となっており、甘く透明な歌声が最高ですね! モンテヴェルディ合唱団の合唱も相変わらず素晴らしく、ハイドンの合唱の魅力を気づかせてくれますし、ガーディナーの解釈もセンス満点です。
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