2013年7月28日日曜日

ベートーヴェン 交響曲第5番 ハ短調 作品67 part2









今なおコンサートの花形プログラム

 音のドラマが心を揺さぶり、充実度満点のベートーヴェンの交響曲第5番は昔から多くの指揮者がこぞって取り上げた作品でした! その傾向は今も変わっていないと言っていいでしょう。コンサートの花形プログラムであることは間違いありません。苦悩から歓喜へ至る勝利の道程は人の心を鼓舞する強いメッセージがありますし、演奏効果がすこぶる高いことも人気の要因なのだと思います。これはいかに第5が聴衆にアピールする魅力をふんだんに持った作品なのかということのあらわれに違いありません。

 ただし演奏そのものは決してたやすくはありません。表面的に曲の体裁を整えたり、バトンテクニックの上手さで感動的な演奏を実現させることは、まず不可能と言っていいでしょう。音楽的に優れているとか、センスがあるという類いの要素はこの曲に関しては逆にマイナスの材料になりかねないのです。第5は指揮者の人間性、精神性、芸術性までも浮き彫りにしてしまう恐ろしい作品といっても過言ではありません。とにかく上っ面を撫でた指揮、マニュアル通りの指揮では到底表現できない高度な精神と意志の力が音楽に色濃く反映しているのです。


音楽の概念を根底から覆す作品

 第1楽章はメロディ的な要素が一切なく、音楽の概念を根底から覆すような革新的で大胆な試みに驚かされます。たたみかけるような絶望的な主題や緊迫感漲る構成が曲が進行するにつれて次第に魂の鼓動や訴えを如実に表出していくではないですか! 
 第2楽章の回想や瞑想…、ここではさまざまな想いが夢のように交錯します。しかしベートーヴェンは自分を取り戻しつつ、過去に決別しながら着実に前進していくのです。
 第3楽章の冒頭は第5で最も印象的な部分かもしれません。暗闇の中からゆっくりと顔を上げ、恐れと不安に怯えながらも地に足を着けて歩き出す姿が印象的です!
 そして第4楽章フィナーレの圧倒的な勝利の凱旋!執拗なくらい何度も何度も繰り返される歓喜のテーマは有無をも言わせぬ感動と興奮を引き起こしてくれます!


チェリビダッケの密度の濃い名演奏

 最近これは…と思える素晴らしい演奏に巡り会えました!それはセルジュ・チェリビダッケがミュンヘンフィルを指揮した1992年のライブ演奏(EMI)です。第1楽章からチェリビダッケ独特のゆったりとしたテンポで始まりますが、引き締まった造型と磨かれた立体的な響きが他では味わえないような充実した演奏を創り出しています。
 第一楽章は一般的に早いテンポでグングン押していく指揮者が多いのですが、チェリビダッケはテンポを変えたり、興奮して加速したりということが一切ありません。ただ有機的で気持ちのこもった楽器の音色が最上の純音楽的な美しさを引き出しているのです!

 特に素晴らしいのは第3楽章の冒頭の暗闇からの目覚めを表出する意味深い響きではないでしょうか。絶望や喘ぎを深い呼吸でじっくりと表現しており、思わず感情移入させられます。それに続く第4楽章も金管楽器の強奏を始めとする、これぞベートーヴェンという隙のない響きがたとえようのない満足感を与えてくれます!録音が素晴らしいところも魅力で、現在フルトヴェングラーの数種類の録音を除けば、最も安心して聴ける演奏と言っていいかもしれません。




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