モーツァルトは生涯、さまざまなジャンルでたくさんの名曲を世に輩出してきました。そのような中でもヴァイオリンソナタはモーツァルトの作品の中では最も親しみやすく、明るい幸福感に満ちた良い作品だと思います。
しかし、ヴァイオリンソナタの中で唯一、21番のホ短調K.304だけは、「鼻歌交じりに演奏♩」というわけには中々ならない曲です。なぜなら、この曲は遊びやのりしろのようなものがほとんど無く、モーツァルトの純粋で屈託のない気持ちが素直に表れているからなのです。
K.304は2つの楽章のコンパクトな作りです。曲は深い悲しみの表現が印象的ですが、非常に透明感に溢れ、真実味に溢れています。特に第2楽章は美しく、みずみずしい感性がキラキラ光っており、優美なメロディに心が洗われるようですね。
中でも印象的なのは第2楽章の中間部。ここはモーツァルトが頬を涙に濡らしながら、心に鬱積したものを静かに洗い流す場面でもあります。さまざまな映像が走馬灯のように流れる中で、安らぎや祈り、不変の愛を信じて疑わないひたむきな感情がゆるやかに交わされます。そのやりとりが何と深く心に突き刺さることでしょうか!「モーツァルトは心に天国を持っていたんだ!」と……。そう思わせられる瞬間でもあります。
この第2楽章はヴァイオリンとピアノのリサイタルでも演奏される機会がよくあるようですね。決して難度の高い曲ではありませんが、曲の間のとり方、表情の付け方によっては演奏が生きも死にもする典型的な作品といっていいでしょう。演奏自体は苦にならないけれども、感動的な演奏をすることは難しく、それだけに演奏家冥利に尽きる曲でもあります。
演奏はヴァイオリンのシモン・ゴールドベルクとピアノのラドゥ・ルプーによる演奏が曲の本質をピタリと捉え、情感豊かでありながら最高に息のあった演奏を展開しています。もちろんK.304以外の曲も素晴らしく、お互いが良さを引き出し合っているのが素晴らしいですね!
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