2011年2月25日金曜日

ブラームス クラリネット五重奏曲ロ短調作品115






 ブラームスのクラリネット五重奏曲は昔からモーツァルトのクラリネット五重奏曲と並び、不朽の名作と言われてきました。それにしても何という弦楽器とクラリネットの柔らかくロマンティックな響きでしょうか……。

 全編を通じ、深い悲哀に満ちたメロディが続くのですが、まるで晩秋の落ち葉のように枯れた味わいは陰影を伴って心にぐんぐん溶け込んできます。、寂寥感漂う独特の雰囲気は静かに深く心に沁み、心の中の情景をも変えてしまうかのようです。

 この曲はできれば一人で聴きたい曲ですね……。あくまでも肩の力を抜き、時間を忘れ、自分を見つめなおす……。そのよう自分の心を解き放つゆとりが持てる、プライヴェートな魅力を持った曲といったらいいかも知れません。
 この作品でのブラームスの内省的な円熟の境地は凄く、誰もが一人で別世界に浸る喜びを味わえるのではないでしょうか。

 短調の曲でありながらも、アンサンブルの構成力の高さ、抜け切った崇高な旋律は重苦しく、暗いイメージを払拭しているのです。クラリネットも終始叫ばず、効果を狙った跡も皆無ですが、どこまでもまろやかで哀愁漂う響きがとても心地良く感じられるのです。

 それぞれの楽章で印象的な部分を挙げるとしたら、まず第1楽章ではクラリネットのつぶやきのような物悲しい旋律を弦楽器が優しく包むあたりでしょう。第2楽章では穏やかな木漏れ日を浴びながら安らかに平和を謳歌しています。しかし、突如として忍び寄る絶望と失意……。やがては涙をぬぐってその事実を受けとめ、また元の安らかな笑みを取り戻す……。曲が穏やかに開始されるぶん、中間部での深い慟哭は忘れられない印象を残します。
 第3楽章は小気味よいテンポと印象的な主題の登場で、ワクワクし、胸が高まっててきます。第4楽章のクラリネット、ヴァイオリン、チェロがフーガのようにテーマを変えながら美しく歌い交わす部分は非常に格調高く、ドラマチックで詩的な雰囲気を高めます。

 演奏はフックスがウイーンコンツェルトハウスを率いて、1963年に東京文化会館で録音したものを挙げたいと思います。ウイーン風の昔懐かしい響きはしっとりとしており、弦のポルタメントがかかった演奏は、このブラームスにぴったりです。とにかく、ロマンティックで哀愁に満ちた曲の雰囲気をよく伝えてくれます。






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