2016年5月20日金曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン ハイドン「天地創造」





ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2016より






ダニエル・ロイスの
真骨頂ふたたび!

 今やゴールデンウイーク恒例のクラシック音楽イベントとなったラフォル・ジュルネオ・ジャポン! 今回のプログラムの目玉の一つが5月4日のハイドンのオラトリオ「天地創造」でした。
 公演が20時45分からというのに、国際フォーラムの大会場Aホールには沢山のお客様が詰めかけているではありませんか……。きっとゴールデンウィーク中というくつろいだ雰囲気と一流アーティストの共演によるプログラムの関心の高さや信じられないほどのリーズナブルな価格(S席で3000円)が後押ししているのでしょう。

 さて天地創造といえば。旧約聖書の創世記を題材にした音楽のスペクタクル劇という考え方が一部では定着しているようです。もちろん劇的で華やかな部分がないわけではありませんが、かといってエンターテイメント系の音楽というにはあまりにも無理があります。このオラトリオの醍醐味は愛おしく優しいアリアの魅力を味わうことであったり、神への喜びと感謝に満ちた嬉しくて仕方のない子供のような純粋な気持ちを共有するところだと思うのです。

 指揮者のダニエル・ロイスは声楽に対してとても造詣が深く、ローザンヌ声楽アンサンヴルと組んだ昨年のラフォル・ジュルネオ・ジャポンでもバッハのミサ曲ト短調やヘンデルのディキシット・ドミヌスですっきりとした造型と美しいハーモニーでエキサイティングな名演奏を披露してくれました。
 今回の『天地創造』はハイドン晩年の大作だけあって、さらに期待に胸が膨らもうというものです!


二部からフィナーレにかけて
稀にみる完成度の高い名演となる

 序曲は混沌とした創造の過程を表す抽象的な主題が綿々と続くため、一度聴いただけでは本質をなかなか理解出来ません。それだけにここは指揮者にとってどのようにアプローチするか腕の見せ所なのです。
 ロイスの指揮は音楽の本質をしっかりつかんでいるものの、楽器の鳴らし方がちょっと大人しかったのか、響きがホールに充満せず密度に欠ける嫌いがありました。創造の情景を想起させる肝心なところだけに、これだけはちょっと残念でしたね……。

 でもテノールのレチタティーボが始まると俄然ハイドンの音楽が冴え渡り、魅力が伝わってくるのを感じました。リュシー・シャルタン(ソプラノ)、ファビオ・トゥルンピ (テノール)、アンドレ・モルシュ (バリトン)の3人のソリストたちは強烈な個性はないものの、終始歌心にあふれていて、ハイドンの愉悦感が出ていたのがとても良かったです。特に第三部ソプラノとバリトンのデュエットは甘く陶酔的な調べが絶品でした!

 要所要所に入る合唱もヴィブラートや誇張を省いたハーモニーが美しく、透明感を基調にしつつ歌声が無理なくブレンドされた素晴らしいものでした。たとえ雄渾なフーガの部分での合唱も力づくの熱唱を繰り広げるのではなく、それぞれのシーンに応じた色彩のトーンの変化で多彩な表情を生み出しているのです。

 またロイスの指揮は二部あたりから水を得た魚のように自在にオーケストラを操るようになり、シンフォニア・ヴァルソヴィアの楽員たちもそれに応え様々な魅惑の響きを轟かせていましたね! 響きはますます結晶化され、ソリストたちとの呼吸もピッタリで、次第に音楽を聴く喜びで心が満たされていることに気づかされました。 
 言うなればオラトリオは指揮者をはじめ、歌手、コーラス、オーケストラのキャストの共同作業だし、心が一つに溶け合えば素晴らしい響きとなって伝わってくることを今さらながら感じさせていただきました。




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