2016年2月7日日曜日

モーツァルト ピアノソナタ第11番イ長調K.331








「トルコ行進曲」の
驚くべき魅力と魔法

 モーツァルトのピアノソナタと言えば、ほとんどのかたが終曲に「トルコ行進曲」を持つK331をあげるのではないでしょうか。確かに「トルコ行進曲」はモーツァルトのピアノの代名詞のような作品で、今なお多くの人々を魅了し続けていることは間違いありません。

 トルコ行進曲を聴けば聴くほど、その凄さに圧倒されます。改めてモーツァルトでしか作れない唯一無二の音楽と言えるでしょう! 

 まず、トルコ風のテーマが何とも不思議で可愛いらしいこと……。一小節ごとに表情が変貌し、生き物のように自在に五線譜を駆け巡る音楽のエネルギーは「魔法のよう」としか言いようがありません。
 変幻自在のリズムと真剣かつ果敢な遊び心が溶け合って、音楽は燃え盛る太陽のようにエネルギーを全開させながら終結していくのです!

 しかもその中にあふれる茶目っ気と無垢な魂の魅力といったらどうでしょう……。まさにモーツァルトならではの魅力満載で、一度聴いたら虜になってしまうのも無理はありません。


変奏曲の先駆をなす
豊かな感情表現

 「トルコ行進曲」の天才的な楽曲もさることながら、もう一つ目を惹くのが第一楽章の変奏曲の見事さです。おそらく変奏曲をこれほど大々的にピアノソナタに取り入れたのはモーツァルトが最初なのではないでしょうか。

 安らぎと愛に満ちた主題が開始されると、その後は調やリズム等を変形させながら6つの変奏曲が流れていきます。それぞれに豊かな感情が込められており、生き生きとした表情が浮かび上がってくるのです。

 変奏曲を得意とするシューベルトは即興曲作品142の第3楽章アンダンテで大変に素晴らしい変奏曲を残してくれましたが、モーツァルトの第一楽章はその原形となるものだったのでしょう。



クラウスの自信に
満ちた演奏

 演奏の筆頭に挙げたいのが、リリー・クラウスのステレオ録音盤(CBS)です。何よりも気品にあふれています。そして揺るぎない自信に満ちていて、モーツァルトの無垢な魂を誠実に反映させた演奏といっていいでしょう。

 つまり演奏にまったく迷いがないのです。頭で考えられて、どうにか意味づけをしたという演奏ではなく、あくまでも身体に染みこんでいる様々な想いを体現した演奏なのです!
 特にトルコ行進曲は自在にテンポを変えているのですが、少しも不自然なところがありません。モーツァルトの音楽の魅力を知り尽くしたクラウスだから出来る演奏なのかもしれません。

 またとかく無味乾燥になりやすい第一楽章の変奏曲を造型を崩さず、これほどまでに豊かな感情を込めて弾いたピアニストは他にいないのではないでしょうか……。


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