家族の日常を
愛情持ってとらえた名画
以前、家族を描いた名画は少ない…との内容を投稿したことがありました。確かに家族を肖像画として描いた絵は画家と描かれた家族との信頼関係や良好なコミュニケーションが成立しない限り、なかなか難しいものがあります。
しかし、例外もあります。それは家族の日常を愛情あふれる一瞬の光景としてとらえられた時ではないでしょうか?
その代表的な作品がシャルダンの名画『食前の祈り』です。この絵に描かれたお母さんと二人の娘のやりとりはなんと微笑ましく愛情に満ちあふれていることでしょう……!
もちろん、それが表面的な効果を狙った風俗画であれば、絵にひきつけられることはないでしょうし、感動を呼ぶこともないでしょう。しかし、シャルダンの絵の素晴らしいところは単に風俗画としてではなく、彼が得意とした静物画のように存在の本質に迫るべく大まじめに描いているところなのです!
密度の濃さと
繊細優美な表現の融合
シャルダンという人は静物画に唯一無二というくらいの高い適性を発揮した人でした。その絵は一貫して深く鋭く存在の本質に迫るのが特徴で、天才的な感性と表現力はなかなか真似のできない世界を構築していたと言っていいでしょう!この人の絵は当時の華やかな風俗画を描くロココ絵画時代にあっては異色の存在だったのかもしれません。
『食前の祈り』のテーマはタイトルどおり、食事をする前に幼い妹のお祈りが充分でないのを見て、お母さんとお姉さんがたしなめている様子なのですが、なぜかまったく嫌味がありませんね。なぜなのでしょうか……。
シャルダンの画風はゴシック、バロックからの西洋伝統のアカデミックな古典的スタイルをベースにしているのですが、それだけではありません。彼はそれに優雅で気品あふれるセンス満点の描写を絵に巧みに融合しているのです。つまり密度の濃い描写と繊細優美な表現が絵の中で無理なく溶け合っているのです。
家族を包む温かな空気と柔らかな光。だからこそ重厚な画面ではあるものの、全体の印象がとても穏やかで優しいのでしょう……。その静謐で格調高いメッセージはぐんぐんと私たちの心に響いて離れないのです。
また安定感のある構図も画面全体に強い1本の軸を印象づけて、たとえようのない充足感・安心感を引き出しています。たとえば、お母さんと二人の姉妹を結ぶ視線の配置や動きはトライアングルのような親密な関係を浮かび上がらせていますし、更に3人を結ぶ三角形の揺るぎない構図も大きな広がりと発展を感じさせるのです。まさに18世紀のみならず、古今を代表する家族絵画の逸品と言えるでしょう!
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