2015年4月5日日曜日

モーツァルト ピアノ協奏曲第11番 ヘ長調 K.413











無上の喜びで満たしてくれる
モーツァルトの音楽

 モーツァルトの膨大な音楽の中でピアノ協奏曲は彼にとってライフワークであり、特別なジャンルでした。その卓越した音楽性や洗練された感性、変幻自在な音の遊びが生き生きと驚くべき才能と共に発揮された例はないでしょう。

 多くの作曲家が苦渋に苛まれながら絞り出すように創作した痕跡はモーツァルトの場合は例外的にあてはまらなかったのでした。もちろん作曲するのに困難がなかったわけではありません。晩年の極貧状態や周囲の無理解による創作の迷いも多々ありました。加えて楽天家を装わなければ生きていけないくらい研ぎ澄まされていた繊細な感性と周囲との価値観のギャップ……。

 しかし、モーツァルトの音楽を耳にするとき、私たちの心を無上の喜びで満たしてくれるあの幸福な感覚は一体何なのでしょうか……。彼は朝が来れば小鳥が愛の歌をさえずるように、陽の光が顔を照らすように、風が頬を心地よく撫でるように、然るべきところに然るべきものがあるように愛のメッセージを届けてくれたのでした。
 
 生まれながらにして人の喜びと悲しみ、そして物の本質を瞬時に察知する天性の音楽家……。それがモーツァルトその人だったと言っても決して過言ではないのです。



ウイーンデビューの
希望に満ちた歌

 さて、ピアノ協奏曲11番K413はウイーン移住後、希望に燃えていたモーツァルトがリサイタル用の作品として取り組んだ協奏曲です。気負いがなく素直ににじみ出たメロディや主題は素晴らしいのひとことです。ウイーンの聴衆に向けて語った「むずかしすぎず易しすぎず、音楽通はもちろん、そうでない人もなぜだか満足」という言葉はこの曲でも充分生きてますね……。

 K413では愛おしさに溢れた終楽章テンポ・ディ・メヌエットが特に印象的です。冒頭の霧がすーっと開けるように始まるポリフォニックな主題がまず魅力的ですね。管弦楽とピアノの自然な対話の中で何度も形を変えて展開されるこの主題は次第に懐かしい情景として心に刻まれていくのです。

 演奏はマレイ・ペライアのピアノと指揮によるイギリス室内管弦楽団の録音(CBS)が好感が持てます。特に素晴らしいのは前述の第3楽章テンポ・ディ・メヌエットで、ピアノと管弦楽の絡みが心地よく、音楽に共感しているのが弦の表情豊かな響きや管楽器のまろやかな響きからもよく伝わってきます。





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