2013年4月27日土曜日

シューベルト『楽興の時 D780』








 シューベルトはよく孤高の作曲家と言われます。稀に見る美しいメロディや詩的な音楽の雰囲気がそのように呼ばれるゆえんなのでしょう。特に歌曲やピアノソナタでの揺れ動く感情、絶妙な転調は心を揺さぶります。
シューベルトはまさに音楽と詩を最初に融合し歌曲の領域を切り開いた音楽詩人だったのです。このことだけでもシューベルトの名は永遠に名を残すことになるでしょう。お分かりのようにシューベルトの作品には絶えず詩的な情感が漂っています。それは歌曲に限らず、「未完成交響曲」、「冬の旅」、「白鳥の歌」、「即興曲」等の至高の音楽でもそれらの特徴が顕著に現れているのです。

「楽興の時」も詩的な雰囲気を伴ったいかにもシューベルトらしい作品ですね。朴訥とした飾り気のない表情が親しみやすく、語りかけるような曲調が心に残る音楽です。第1組曲からのどかで穏やかな主題に心惹かれるのですが、展開部では次第に望郷の詩のように孤独と憂愁がないまぜになりつつ胸のうちを痛切に表現していきます。第2組曲ではさらに寂寥感が増し心の想いを伝えていくのです。

第3組曲はいろんなところで独立して使われることの多い名曲です。短い音楽ですが、その中に込められた崇高なメッセージはシューベルト以外には作れないかもしれません。とても魅力に溢れた一遍ですね!「楽興の時」は深刻で暗い影がつきまとう作品ではないので、比較的聴きやすく演奏も比較的容易な人気曲といっていいでしょう。

演奏はバックハウスの(Decca)録音が人生の詩と言えるような味わい深い名演です。バックハウスのタッチは決してスマートではありませんが、ベートーヴェンのような厚みのある音から聴こえる深い表現は別格的な素晴らしさです。「楽興の時ってこんなに素晴らしい作品だったのか…」と感じていただけるかもしれません。





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