2011年9月27日火曜日

バッハ ピアノ協奏曲第1番ニ短調BWV1052




傍若無人な演奏を思いのままに実現





 バッハのピアノ協奏曲は普段はよほどのことがなければ聴かない曲です。なぜかと言えばチェロ組曲や無伴奏ヴァイオリンソナタのような突き抜けた面白さは無く、演奏ももう一つピンとくるものがなかったからです。そもそもピアノ協奏曲はチェンバロ協奏曲をそのまま楽器を変えてアレンジした作品なので、弾くほうにもそれなりのセンスが要求されるのです。
 しかし偶然20年ほど前に出会った演奏にはすっかり心を奪われてしまいました。それがシプリアン・カツァリスのピアノとヤーノシュ・ローラ指揮リスト室内管弦楽団によるものでした。

 何が凄いかというとそれは1にも2にもカツァリスの超絶的ピアノに尽きることになるでしょう。
 この作品でカツァリスはバッハの作品を少しも臆することなく、自分の信じた表現で傍若無人な演奏を思いのままに実現しているのです。

 彼の演奏の凄いところはすっきりとした古楽奏法や軽妙なタッチにはまったく目もくれず、ストレートに力強い音色を奏で、音と音とのがっちりとした有機的なつながりを実現しているところなのです!そのことが、音楽に決定的な存在感を与えているのです。
 特に凄いのが最初の2曲BWV1052、1056です。それにしても何という胸のすくピアニズム!繊細な和音の表情などよせつけない快刀乱麻の進行にただただ呆然と聴き入るのみです。しかも、瞬間瞬間に命をかけた潔い表現はとても格調高く、風格さえ漂わせるのです。

 多くのピアニストが細部の優美さにこだわるあまり、退屈に聴こえてしまうバッハのピアノ協奏曲をここまで透徹したピアニズムで一貫したカツァリスの表現力には驚かされます。それと同時に、バッハのピアノ協奏曲の作品としての魅力(特にBWV1052)を改めて証明してくれたカツァリスの功績は大きいと言えるでしょう。






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