新年明けましておめでとうございます。あっという間に10日が過ぎてしまいましたね!私事ですが、なかなか更新できず、長らく無沙汰してしまいました。読んでいただいていた方には大変にご迷惑をおかけしました。
さて、日本では正月の音色というと琴になるのでしょうが、西洋音楽で新年をイメージさせる音色は何になるのでしょうか?私にとってはフルートの澄み切った音がそれにふさわしいように思えるのです。
しかし、西洋音楽の歴史でフルートの名曲は……というと、これが意外に少ないのです。それは大バッハも例外ではありません。実際バッハがフルートのために作った音楽はそう多くはありません。ここで紹介するフルートとチェンバロのためのソナタBWV1030も数少ない作品の中のひとつです。モーツァルトはファゴット、フルート、ホルン、クラリネット、オーボエと数多くの管楽器のための作品を作っていますが、時代的な背景のせいか、バッハは音色が明るいクラリネットやフルートにはあまり関心を向けなかったのかもしれませんね。
その代わり、ヴィオラ・ダ・ガンバやチェロなどの渋めの楽器は好んで使ったようです。そういうところにもバッハとモーツァルトの作曲の傾向がはっきり表れていて面白いですよね。モーツァルトは音色が明るくまろやかな響きの管楽器を大変好んでいたようですが、バッハの場合は、その明るさが逆に曲に軽薄なイメージを植え付けるという懸念があったのか、あまり積極的ではなかったようです(ブランデンブルグ協奏曲4番のような例外はありますが…)。透明なパステルカラーから極彩色まであらゆる色彩を使いこなしたモーツァルトとモノトーンで深みのある表現を目指したバッハとの違いなのかもしれません。しかし、フルートとチェンバロのためのソナタBWV1030はバッハ特有の幽玄な音色と深さが備わった最高の魅力作といっていいのではないでしょうか。
特に第1楽章はフルート史に残る傑作だと思います。前奏なしで一気に曲の核心に入っていく出だしは神秘的で融通無碍な境地を感じさせます。そして、これからどういう方向に展開していくのだろうかと固唾を飲んで聴き入る状況が早くも設定されていくのです。その後自由自在に形を変え、調を変えながら目まぐるしく登場する主題に聴き手はたたただ某然と受け止めるしかなくなってしまいます。作品としては有名な無伴奏ヴァイオリンパルティータのシャコンヌと同様のことが言えるのではないでしょうか。
この曲には忘れられない演奏があります。ペーター・ルーカス・グラーフがフルートを担当したものです。グラーフのフルートは自然なフレージングと透明感のある響きを特徴としていますが、この曲でもその魅力は遺憾なく発揮されています。まず第1楽章の出だしから無意味な誇張を避け、ひたすら楽譜にある美しさを次々に表出していくのです。
もっと曲の盛り上がる部分では誇張してもいいのでは?という意見が出ても不思議ではないと思いますが、しかしこれでこそグラーフなのです。肩の力を抜いたしなやかなフレージングと音色が高貴な香りを漂わせ、作品から純音楽的な美しさを見事に引き出しているのです。
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