2010年7月26日月曜日

ジャック・ドゥミ シェルブールの雨傘



Les Parapluies de Cherbourg 1964



 第二次大戦後の1945年から1965年までの20年間、フランス映画は成熟期といっても良く、錚々たる上質の映画が次々と公開された時代でした。思いつくまま挙げてみると、天井桟敷の人々(1947)禁じられた遊び(1952)愛人ジュリエット(1950)嘆きのテレーズ(1952)恐怖の報酬(1952)死刑台のエレベーター(1952)恋人たち(1958)太陽がいっぱい(1960)等々、明らかにハリウッドの商業主義とは一線を画した時代でした。
 
 そして、この「シェルブールの雨傘」も当時のフランス映画の芸術性と革新性を充分に感じさせるものだったのです。この映画は何といっても、ストーリーの展開以上に全編に溢れる音楽の魅力と美しい映像が強く印象に残ります。全体はミュージカル仕立てになっていて、音楽はちょっとしたやりとりに至るまで完璧に音楽によってエスコートされています。しかも、その音楽のレベルの高いこと……。その音楽の完成度と芸術性はすでにオペラの領域といっても、一向に差し支えないほどです。

 もちろん、制作を手がけたジャック・ドゥミーの手腕とアイディアは当然評価されるべきものなのですが、音楽やカメラの力なくしてこの成功はあり得なかったでしょう。色彩や陰影を哀しいくらい美しく捉えるジャン・ラビエのカメラワーク。その映像表現は惚れ惚れするほどで、ため息がでます。カラー映画の素晴らしさを最大限に生かし切った最初の映画と言ってもいいかもしれません。
 それ以上に強く心に残るのがミシェル・ルグランが全編に途絶えることなく付けた音楽です。ルグランの音楽のイマジネーションは驚異的で、ジャズやマンボ、サンバ、タンゴ、クラシック等さまざまなシチュエーションで多様な音楽が展開されていきます。それも単なる寄せ集めという次元ではなく、すべてがストーリーの展開にあわせて、渾然一体となり、極めて自然に詩的なイメージを高めてさえいるのです。

 【ストーリー】
 ジュヌヴィエーヴ(ドヌーブ)とギィ(カステルヌオーヴォ)は恋人同士で、結婚を約束していました。そのような中、ギィにアルジェリア戦争の召集令状が届き、戦地に赴くことになったのです。そこから運命の歯車は少しずつ二人を離していきます。ギィが戦地から帰ってきたとき、二人はまったく違う道を歩むようになっていたのでした。
 しかし、ある雪の夜、ギィのガソリンスタンドにジュヌヴィエーヴを乗せた車が止まります。それはお互いに想像もしなかった再会となるのでした……。出会いと別れの運命のいたずらを、映像と音楽は詩的なまでに美しくそれぞれの情景を盛り上げていきます。主演のカトリーヌ・ドヌーブは上品で美しく、映画もとにかくスタイリッシュで、かつムード満点で、耳にも目にも最高に上質な時間を約束してくれます。


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