One Point Review

2013年3月21日木曜日

テレマン ターフェルムジーク(食卓の音楽)








理屈よりも純粋に音楽を楽しむための作品

 テレマンの「ターフェルムジーク」は「食卓の音楽」という意味を持つバロック音楽の名曲ですが、大変有名な作品だけに皆さんもどこかのフレーズを一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。タイトルにあるように、当時の王侯貴族が食事をする際の演奏用として作曲を依頼したものなのです。それにしても洒落ていて熟成されたワインのように味わい深い作品ですね……

 全3巻からなる「ターフェルムジーク」は管弦楽組曲、四重奏曲、協奏曲、トリオ・ソナタ等の6種類の形式で18曲と多彩な組み合わせで構成されています。この作品は祝典用としても大いに使われたらしいのですが、曲を聴くとそれも充分うなずけます。たとえばバッハの管弦楽組曲あたりと比べると違いは明らかです。
 バッハの作品が祝典用の演奏としてはドラマティックでやや襟を正さなければならない雰囲気を醸し出すのに比べ、この作品集はまるでBGMに特化したのではないかと思えるほどすんなりと馴染みやすいのです!比較的平明な主題から繰り出される洗練さと優雅さを併せ持った楽器の響きはテレマンならではです。
 
 この作品の最大の魅力は曲の構成がどうこうというより、純粋に音楽を演奏しそれを聴くことの楽しさや喜びを存分に味わえることでしょう!
 それぞれの曲のテーマは驚くほど多彩で変化に満ちています。音楽の魅力をあげたらキリがないのですが、愛らしくなごやかな雰囲気で進行する絶妙の音楽。音楽そのものに構えた要素やドラマティックな意思が働いていないため、聴く人は安心して音楽に浸ることが出来るのです。いわば最高の癒しの音楽と言っていいかもしれません!
 それにしても理屈っぽさが無くひたすら心地よい音楽を生み出したテレマンの音楽性は本当に素晴らしいですね! しかも自然に身体や心に染み込み飽きるところのない滋味あふれる音楽なのですから



ヴェンツィンガーの唯一無二の名演奏

 この作品は一にも二にも演奏が良くなければどうにもなりません。しかし、ターフェルムジークに関してはほとんどの演奏がつまらないと言わざるを得ないのがちょっと残念です。何と言ったらいいのでしょう……。音楽を楽しむゆとりと格調の高さがあり、本当の意味で遊び心のある演奏が少ないのです。この作品をがむしゃらに演奏したとしても心地よい演奏にはまずなりません。

 そんな中で唯一無二といってもいいほどの素晴らしい演奏があります。アウグスト・ヴェンツィンガー指揮=バーゼル・スコラ・カントルーム合奏団(アルヒーフ・廃盤)の演奏です。もちろん各楽器の奏者はとびきりの名手揃いなのですが、それだけではないでしょう。
 演奏は全体的にのんびりしているし、これといった特別な効果を狙ってないため、ちょっと聴くととても平凡でつまらない演奏に思われるかもしれません。しかし、たっぷりとした呼吸やフレージング、そして潤いのある音色。しかも絶えず奏でられる温もりのある響き。やはり指揮者をはじめとしてソリストたちが音楽を心の底から愛し味わっていることがとても良く伝わってくるのです。

 今、こんなに素晴らしい響きを出せる人がどれだけいるのでしょうか? たとえば第1集の協奏曲イ長調で各奏者が微笑みながらおしゃべりを交わすように奏でられる響きは何度聴いても飽きることがなく、まさに音楽に浸る喜びを実感させるのです。
 ただ、これほど絶賛したのにヴェンツィンガー盤のCDは現在廃盤中です。抜粋盤があることにはあるのですが、一度気に入ったら間違いなく全曲盤が聴きたくなることでしょう。一日も早い全曲盤の復活が待たれてやみません!




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