このオラトリオはヘンデルのオラトリオの中では「メサイア」に次いでポピュラーな作品ではないでしょうか。ポピュラーというのも決して作品自体がポピュラーなのではなく、ある特定の曲が特別に有名だからなのです。
その曲は日本のスポーツの祭典や大会の表彰式でもよく使われる「見よ勇者は帰る」という勇壮なヘンデルらしい曲です。この曲は表彰式定番の曲なのでおそらく大抵の人は耳にしたことがあるに違いありません! ベートーヴェンもこの曲を題材に「マカベウスの主題による変奏曲」という作品を残したのは有名な話ですよね。
「ユダス・マカベウス」はマカバイ記(聖書外典)のユダス・マカバイを描いています。彼はセレウコス朝シリアの圧政に苦しむイスラエル民族を解放したイスラエルの英雄だったのでした。
内容は当然のごとく戦闘的なモチーフの展開が多くなり、演奏や演出効果によっては同じような場面の繰り返しになってしまいかねません。概してストーリーもそれぞれの人物像の表現が意外にあっさり描かれており、聴きかたによっては「退屈だ」とか「単調だ」と感じてしまう方がいらっしゃっても決して不思議ではないでしょう。 しかし音楽的にはいささかも薄っぺらな内容ではなく、全体的に不屈の信念と神への賛美を描いたとても格調の高い骨格のしっかりした傑作と言えると思います。
特に合唱の数はヘンデルのオラトリオの中で「エジプトのイスラエル人」、「メサイア」に次いで多く、そのどれもが重要な意味を持つ内容豊富な曲ばかりです。
ヘンデルは劇中のさまざまな合唱でこの英雄の進撃に対して快哉を叫ぶ民の声や圧政に打ちひしがれる民の哀しみを雄大なドラマとして表現し尽くしています! 全体的になだらかな曲線を描きながらスケール豊かに歌われる数々の合唱は、時には懐かしく響き、遙かな永遠への確信を抱いて歌う神への讃歌となっていくのです!
デュエットやその間を縫う多くのアリアも気品に溢れ、優雅な味わいを醸し出し魅力も満載です!
合唱で忘れ難いナンバーは神の偉大さを称え、輝かしく晴朗に歌うフィナーレの「ハレルヤアーメン!」、神への賛美を大河の流れのように優美に綴った「シオンはこうべ頭を上げよ Sion now her head shall raise」、セレウコス朝の将軍を撃破し勝利を喜ぶ凱旋の合唱「神に向かって歌え Sing unto God」、誓いと信仰告白をフーガのリズムによって表現した「もう二度と跪きはしまい O never, never bow we down」等多数ありますが、いずれ劣らぬ素晴らしい音楽であることは間違いありません。
こうして見ると明確なポリシーを持ち、一貫したテーマのもとに音楽を次々と生み出し曲を構成するヘンデルの才能や手腕はやはり瞠目に値します!
さて演奏のほうですが、推薦盤としておすすめできるCDが意外に少ないのに驚きました。戦闘的な要素を持ちながら叙情的な雰囲気を多分に持つこの音楽を雄弁に語るのはやはり難しいのかと思ってしまいます……。ガーディナー、ホグウッド、アーノンクール、ピノック等、他のオラトリオを積極的に取り上げてきた古楽の大家たちもこの曲はなぜか取り上げていません。
そんな中でとりあえず満足できる録音としてあげたいのがレオナルド・ガルシア・アラルコン指揮ナミュール室内合唱団およびレザグレマンのCDです。とにかく音楽に勢いがあり、合唱も非常にのびやかで音楽に強く共感していることが端々から伝わってきます! そのことが音楽に陰影を与え豊かな表現を生み出しているのでしょう。タイトルロールを担当したテノールの櫻田亮は類い稀な美声と表現力で最高の存在感を発揮しています!
もう1枚ユルゲン・ブッダイ指揮マウルブロン室内合唱団およびムジカ・フロレアの演奏はやや窮屈な感じはするものの、上滑りのしない落ち着いた深い味わいが印象的で、合唱も手堅く充実しています。
もう1枚ユルゲン・ブッダイ指揮マウルブロン室内合唱団およびムジカ・フロレアの演奏はやや窮屈な感じはするものの、上滑りのしない落ち着いた深い味わいが印象的で、合唱も手堅く充実しています。
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